日本や中国で新卒者中心の素人軍団にシャシーの基本設計を指導してきました。
事業所はMATLABなどのソフトは完備しているものの経験がないエンジニアしかいないことがよくあります。
開発の対象は物流車ということが多いようです。
機構の運動の基礎となるポイントを中国ではHARD POINTと読んでいますが、基本計画時点で定義する必要があります。
まず心がけるべきは物流車は比較的高重心で積車時の重心位置が後方に偏りがちであるということです。
この場合、タイヤのローテーションを重視して後輪をシングルタイヤとした場合操縦安定性を確保する方策をいかに講じるかということが第一のテーマです。
フロントサスペンションは最も安価なマクファーソンストラットを採用したいという例が多々あります。
一般的には商用車の前輪には横方向の入力にたいしてストラットの動きを抑制する恐れが多いため採用を避けますが、安価な先行例があるため採用せざるを得ないこともあります。
旋回外輪に対してToe outとなるようなレイアウトを採用します。
後輪ですがGVWが3.5tonを超える車両の場合リーフスプリングを採用するのが一般的で、MB SPRINTERなどは1枚の樹脂製リーフスプリングを採用しています。
ばね傾斜は大きく前スラントのレイアウトとします。
axle steer でUSを狙うためです。リヤを独立懸架とする必要がある場合、安価な車両ではトーションビームを採用する例が多いようです。
この場合Bushのたわみ(コンプライアンスステア)によりOS特性になる恐れがあります。
設計状態でこれをUSにする必要があり様々な試みが各社でなされています。
このへんが技術指導の要点です。
先進国の民生用の製品に関してはpreventive maintenance (予防保全)が
合言葉のように言われている。
壊れる前に定期点検をするという考え方である。
これに対してcorrective maintenance(修正保全)という事象がある。
軍用や過酷地帯での運用に対して故障を前提とした保全の考え方でコンポーネントの分解を素早くできるようにハメアイを隙間ばめにあらかじめ設計しておくなどの手法である。
米国のトラック業界でよく耳にする。
中国の建機製造業で実際に見聞したが、信じられないような高い故障率でありながら顧客満足度をある程度保っていた。こまめな顧客対応をポリシーとしていたためである。
欧州や日本ではトラックでも民生用に準じた取り扱いをしていると思われる。
その結果製造コストが高い。ドイツ車の場合高級イメージがあるためか客が高価格を容認している。
日本のトラックの米中での評判は乗用車のように安価で高品質ということはあまり聞かない。
したがって売れ行きもそこそこと思う。
朝日新聞の中国特派員が広西チワン族自治区の五菱という会社と上海GMの合弁会社が柳州市で
二人乗りの電気自動車を販売しているニュースを伝えていた。
柳州の工業博物館に行った事がある。100年ほど前の中国に最初に導入された製造機械に始まって対日戦争時を経て今日の産業に関する展示があった。自動車に関しては三菱ミニキャブのライセンス生産に始まって現在の小型電気自動車に至る歴史が説明されている。
柳州には五菱と柳州汽車の2社があり多くの雇用を生み出している。
当地は現在モノレールの敷設工事の真っ只中にあり交通インフラが着々と整備されているが移動手段として自動車が欠かせないものになっている。
町の中には充電設備が完備されていて一充電で100km程度走行のミニカーが至る所に駐車されている。これの走行速度は一般車と混在して走行しても支障のないものである。今後さらに販売台数を増
やすものと思われる。
2020年11月30日
11:45
自動車の開発といっても乗用車とトラックではそれを取り巻く文化が異なることが多い。
両者を商品化している会社ではそれぞれの開発グループの情報が互いに孤立していることがある。
社長の下にいるそれらを統括する幹部はなんとか両者を交流させて良い結果を生み出したいと思うがなかなか思い通りには行かない。
技術交流会を試みたりそれぞれの組織の管理職を入れ替えたりといったことをするが成果が出た形跡はない。
挙げ句の果てにそれぞれを別のグローバル組織の傘下にして別会社したところもある。
そもそも文化の違いはBtoCビジネスの乗用車とBtoB的色彩が濃いトラックビジネスのちがいに端を発している。
トラックは顧客がある程度掌握できて比較的少量生産であるのに対して乗用車は不特定多数の顧客相手の大量生産という違いがある。
筆者は乗用車の組織でエンジニアとしての基礎教育を受けその後トラック部門で中間管理職を経験したので両方の風土を経験した。
乗用車組織でたたき込まれるのはことは時間の観念であり、例えば朝令暮改に慣れよとか不具合は即対処せよといったことであるがこれにはトラックの組織で育った人には強い違和感がある。
トラック開発の前提は開発対象のサイズが大きいので実態の試験が容易ではないためシミュレーションや部分的な台上試験を重視する傾向が強い。このため物の見方が演繹的にならざるをえないことがある。したがって実車での試験で不具合が発生したり市場での不具合情報が入ってもこれを重大な事故の兆候とはとらえずにn=1の現象であるとして無視する傾向がある。
開発の周辺状況の変化がゆっくりの時はよいが状況が大きく変化する場合問題であるのはコロナ感染者に対する処置の過ちに似ている。
ボールジョイントは直線力を伝達するために多用されているが近年メンテナンスフリー化のために無給脂化が進んできている。
これは整備を生業としている人々からは昔から評判が良くない。
従来の定期的な給脂作業が習慣化されていたためか無給脂に不安を覚えるということと思われる。
日本では特に整備に手間をかける傾向があって予防メンテナンスとしてこのような給脂をショップで頻繁に行うように習慣づけられている。
メンテナンス間の時間や走行距離が長い海外では事情がやや異なり無給脂技術が進んだ傾向がある。
無給脂のボールジョイントは廻りに樹脂製のベアリングで覆われていることが一般的であるがこれで回転運動や揺動運動をほぼフリクションレスで実現している。
ボールジョイントの軸はステアリングナックルとかピットマンアームなどに固定されておりボールケースはそれらと相対的に可動する部品に固定されている。
ボール部はグリースが封入されていてグリースはダストシールで覆われている。
ダストシールは相対的に変移するハード部品に沿う形で回転 揺動 に追随している。
この追随は寒冷地や過酷な走行時に持ちこたえられなくなる場合があり、隙間が発生して最悪時水が浸入する。グリースに水が入るとヤスリ状変質してボールをけずり機能不全に至らしめる。
保安部品においてこのような状態は危険である。
シャシー部品の一番の泣き所はここであると思われる。