米国ではかつてキャビンの形をヨーロッパのようにキャブオーバーとするかエンジン格納をドライバーの前部に置くコンベンショナルタイプとするかの論争があったと聞いている。
結局コンベンショナルタイプに軍杯が上がった。
スペースの有効活用より衝突安全性が重要であるとの判断であろう。
日本のキャブオーバー型のトラックにおいては法規上では加害性に関する規定があって、フロントオーバーランプロテクター(FUP)の装着が車両総重量が一定以上の車両に義務化されている。リヤにも同様のプロテクターが乗用車との衝突時の潜り込み防止のために義務づけされている。
ドライバー保護のための基準は各OEM独自に検討されている。
キャブチルトヒンジブラケットは通常鋳物製であるが衝突事故時にどういう変形をするかを考慮する。
最悪のケースは鋳物部品の破断・キャブの脱落という形態であろう。
事故後ボルトの1本でも変形しながらでも残存していてフレームに結合されているなら、乗員が離脱したキャブと共に反対車線に投げ出される確率は少なくなる。
この実現のためにチルトヒンジブラケットをキャブに取り付けるボルトの本数とサイズをを必要最小限とする。
締結が強固すぎればボルトをフューズにするというシナリオが崩れるからである。
CAEで衝突のシミュレーションを実施して変形モードを確認しながら設計の妥当性を検証するということが行われる。
キャビンのチルト中心周りの慣性モーメントの違いによって大型中型小型のそれぞれのキャブオーバートラックの機構が異なる。
大型は油圧シリンダーで持ち上げる方式に対して中型は2本のトーションバーと左右のフレームに設置されたアンカーを中心とした捩りモーメント反力によって持ち上げる方式をとる。
小型はトーションバー1本を用いてステアリングギヤと反対側のフレーム上に設置されたアンカー中心の反力モーメントをパイプに伝えてそれに溶接されたブラケットをキャブのアンダーフレームに固定させた構造をとっている。
この方式はフレームの一方に大きなねじりモーメントを生じる。この結果、車体の左右傾斜につながり、リーフサスペンション仕様で通常のCチャンネルフレームの場合この傾向が顕著になる。
ボックスフレームもしくはIFS車では問題化していない。
中型は左右が均衡しているので問題化していない。
大型のキャブエアサスペンション仕様ではチルトが構造上2段階となる。最後のアクションでキャブが急速にチルトする現象がある。これを防止する策が必要である。一つはキャブの自然落下(チルトの最終段階)に抵抗を設ける方法もあるがスマートにはチルトシリンダーの方向を変えて最後までチルトシリンダーでコントロールする方法もある。
モバイルクレーンという車両形態においてシャシーフレームは箱型の閉断面である。
長いブームを持つクレーンが作業しているときに発生するモーメントに対抗するために高剛性のシャシーフレームが必要であるためである。
一般車両の場合、ほとんどはこれほどのねじり剛性を必要としていないがこれにも例外がある。
2トン積みクラスの小型トラックにおいて昔はマツダとダイハツ製のダンプ専用のトラックのサイドフレームを閉断面としてそれをパイプクロスメンバーで結合した構造を採用していた。現在は全てのメーカーがこの構造を真似ている。
西日本のメーカーからこの構造を採用してきたのには理由がある。ダンプは土砂をベッセルで持ち上げて後ろに滑り落とすが、土砂が関東ローム層のようなサラサラな土砂の場合は問題ないが粘土質の成分が多いと滑り落ちずに重心位置が高くなる。この結果車両の横転につながる。土砂には地域性があり、例えば青丹よしという枕詞は奈良の都にかかるように奈良を中心とした関西エリアでは粘土質の土が主流である。因みに青丹というのは青色の粘土を示すと言われている。関東のメーカーであるいすゞがこの対応をしたのはだいぶ後になってからであったと思う。
この箱型断面のフレームは通常のC型断面のフレームに対してねじり剛性が10倍ほどある。
小型のダンプトラックの使い方の中で、ゆっくり走りながらベッセルをあげて土砂を少しずつ撒く形態があり、普通のC型フレームの場合ベッセルが傾いた時フレームがねじれて運転手に傾きが即座に検知されず転倒回避操作が遅れて転倒に至る例が多発した。フレームを閉断面化して解決した。
道路の水捌けのために道路の左右方向に勾配をつけている。
右側通行の国では右側を低く、左側通行の国では左側を低く設定している。
かつてオーストラリアでは出荷後のトラックのフロントアクスルセンターを強制的に曲げて左右のキャンバーを変えることによってこれをタイヤの摩耗対策としていたことがある。背景には直進長距離運行の頻度が非常に高い実情がある。タイヤ摩耗のほかにもう一つの弊害は車両の横流れである。中国の大型トラックでこの問題を分析したことがあるがこの時の結論は6x4の後2軸間の平行度のばらつきが主要因であった。
自動車は旋回時遠心力を重心に受ける。これと前後タイヤのコーナリングフォースの釣り合いの結果としてステア角が決まるが、アンダーステアー特性を持つ車両は外側に旋回する傾向を持つ。遠心力を道路のカントによる重力の分力に置き換えた場合、道路傾斜の下の方に流される傾向がある。アライメントが正しく調整されている場合、この横流れは問題になるレベルではないもののある程度は認識できる。かつてカローラで中国の道路を動力を切って走った時この右への横ながれを確認したことがある。後軸が複輪でYAW方向の動きが超安定のトラックでの傾向が乗用車でもあるのが確認された。
ここでは中国の道路カントは国内のそれより大きいような感じを受けた、
大型トラックのリヤアクスルサスペンションリンクのアッパーアームはVロッドが定番である。アクスル側1点とフレーム側2点で一つのアクスルの上部の揺動機構を構成している。
OEMによってこの設計思想に違いがある。
ダイムラーは標準的な構成のジョイント部をラバーブッシュとしている。
これに対してボルボはアクスル側の1点のジョイントにボールジョイントを用いてフリクションを微小にしているのが特徴である。欧州での通常の使い方では問題ないと思われるが、ボールジョイントのシールが損傷した場合大きなリスクを内包している。ラバーブッシュはフリクションは大きく乗り心地に不利に働くがロバスト性がある。
MANは樹脂製のX型のアッパーアームとしていてねじり入力に対処しながらロール剛性を確保しているようである。中国のサプライヤーがこれを鋳造にして製品化しているといっている。ねじりの入力次第では鋳造の強度限界があり強度上の問題となる恐れがある。