2020年11月30日
11:45
自動車の開発といっても乗用車とトラックではそれを取り巻く文化が異なることが多い。
両者を商品化している会社ではそれぞれの開発グループの情報が互いに孤立していることがある。
社長の下にいるそれらを統括する幹部はなんとか両者を交流させて良い結果を生み出したいと思うがなかなか思い通りには行かない。
技術交流会を試みたりそれぞれの組織の管理職を入れ替えたりといったことをするが成果が出た形跡はない。
挙げ句の果てにそれぞれを別のグローバル組織の傘下にして別会社したところもある。
そもそも文化の違いはBtoCビジネスの乗用車とBtoB的色彩が濃いトラックビジネスのちがいに端を発している。
トラックは顧客がある程度掌握できて比較的少量生産であるのに対して乗用車は不特定多数の顧客相手の大量生産という違いがある。
筆者は乗用車の組織でエンジニアとしての基礎教育を受けその後トラック部門で中間管理職を経験したので両方の風土を経験した。
乗用車組織でたたき込まれるのはことは時間の観念であり、例えば朝令暮改に慣れよとか不具合は即対処せよといったことであるがこれにはトラックの組織で育った人には強い違和感がある。
トラック開発の前提は開発対象のサイズが大きいので実態の試験が容易ではないためシミュレーションや部分的な台上試験を重視する傾向が強い。このため物の見方が演繹的にならざるをえないことがある。したがって実車での試験で不具合が発生したり市場での不具合情報が入ってもこれを重大な事故の兆候とはとらえずにn=1の現象であるとして無視する傾向がある。
開発の周辺状況の変化がゆっくりの時はよいが状況が大きく変化する場合問題であるのはコロナ感染者に対する処置の過ちに似ている。
ボールジョイントは直線力を伝達するために多用されているが近年メンテナンスフリー化のために無給脂化が進んできている。
これは整備を生業としている人々からは昔から評判が良くない。
従来の定期的な給脂作業が習慣化されていたためか無給脂に不安を覚えるということと思われる。
日本では特に整備に手間をかける傾向があって予防メンテナンスとしてこのような給脂をショップで頻繁に行うように習慣づけられている。
メンテナンス間の時間や走行距離が長い海外では事情がやや異なり無給脂技術が進んだ傾向がある。
無給脂のボールジョイントは廻りに樹脂製のベアリングで覆われていることが一般的であるがこれで回転運動や揺動運動をほぼフリクションレスで実現している。
ボールジョイントの軸はステアリングナックルとかピットマンアームなどに固定されておりボールケースはそれらと相対的に可動する部品に固定されている。
ボール部はグリースが封入されていてグリースはダストシールで覆われている。
ダストシールは相対的に変移するハード部品に沿う形で回転 揺動 に追随している。
この追随は寒冷地や過酷な走行時に持ちこたえられなくなる場合があり、隙間が発生して最悪時水が浸入する。グリースに水が入るとヤスリ状変質してボールをけずり機能不全に至らしめる。
保安部品においてこのような状態は危険である。
シャシー部品の一番の泣き所はここであると思われる。
「ホイールを発明する」という英語の表現は、わかりきったことを今更やり直すという意味です。
自動車においては文字通りには解釈されません。
「空飛ぶタイヤ」という小説が話題になったことがありました。走行中の大型トラックの前輪が外れて人を死に至らしめたという不幸な出来事です。
その原因は整備不良ではなく設計不良であったという結論に至る努力がテーマであったと思います。
不具合箇所はトラック前輪のハブという部品の筒状からフランジ状に変化する部分で、不具合現象は旋回時に路面とタイヤの間い働くコーナリングフォースによる曲げモーメントを
タイヤ回転を一周期として繰り返し受けここが疲労し亀裂が入った状態で走行中に脱輪したものと想定されます。
当時はトラックへのラジアルタイヤ装着が行われ始めたころですが、横方向の踏ん張り力が大きいのが特長でした。
これは操縦安定性の見地からはプラスですが強度の面からは注意すべきことでした。
また当時のトラックの耐久性の評価は悪路の上下入力中心で、欧州のように制動時や旋回時の入力を重視していませんでした。
不具合を認めた後、その会社は巨額のリコールを実施しましたが、ドイツでは想定できないことのようです。
おそらくホイール回りの安全を重視されるべき部品は各社共通のサプライヤーが担当しており設計も同様であるからではと推察します。
技術革新が著しい部位においては各社のユニークな設計をして競合することで社会に貢献できるのでしょうがコモディティ部品に独自性を持ち込むことは愚策のようです。
「ホイールを発明する」必要はありません。
6x4HDTにおいて後軸間のYAW方向の平行度が走行安定性を維持しタイヤの摩耗を適正化する意味から重要であると主張してきた。
メカニズムはテクニカル講座に示している。
現在知りうる限り、VOLVOトラックなどヨーロッパOEMは1/1000rad以内に管理されているという。
日本であるメーカーの抜き打ち調査を試みたが3/1000rad程度であった。
中国でかつて技術指導していた時その値は10/1000radを超えていた。さすがにフロントタイヤの偏摩耗が問題となっており
ハンドホイール取られの苦情が報告されていた。
検査ラインに計測装置を導入して全数検査するまでにはその当時いかなかったがアフターサービス用の装置を仮導入して検査をトライすることはできた。
その結果状況は改善された。
日本のOEMへも装置導入を図ったが外資系の約1社が消極的であった他は導入に前向きであった。
シャシーの技術において一般的に中国のOEMは日本の(コストダウンにしか関心がなさそうな)OEMより将来性があると感じている。