専門分野
私の専門分野はトラックのシャシー構造です。ところが一般的な技術分野としてはマイナーな存在と思われています。
ウエブページ上の記述や大学の教育の内容は乗用車を基調としたものにならざるを得ません。
物流は重要なテーマですが、技術的な話題の中心は特に日本においては暗黙のうちに乗用車の技術に傾いています。
欧米では、特に大型トレーラーの技術に一定の注目がされているいるようです。
わが国では大中型トラックの主流は、単車といわれるホイールベースの長い車両です。
基本的には乗用車の仲間です。
けん引する車両がトラックの中心である欧米とは違います。
ただし、欧米でも中型クラスの車両は牽引車ではないのが一般的ですが。
品質工学
初学者を対象とする講義の準備中です。
いろいろアプローチを考えましたが、教科書を
2冊に絞り込みました。
いづれも理想的なものと思います。
まず、日経文庫発行の「品質管理のための統計的手法」
これは、要点を手際よく整理されていて全体を把握するのに適していると思います。
次に「実践・品質工学」(日刊工業)が適していると思います。
品質工学関係は田口・矢野・宮川先生の本を中心に検討しましたが、統計学の素人には
少し敷居が高いように思いました。
上記の2冊を駆使して来年スタートのレクチャーに備えようと思っています。
元々自動車会社出身というだけで品質管理を教えろとの無茶振りからこの話はスタートしました。
まずは聴講生を寝させないように話すことがテーマです。
卒業後に開発に携わった場合、これらの知見が役立つとは思いますが、知らなくてもなんとかなる
ものです。ただし、志のある開発者となるためにはこれらを習得することが有意義であることは
論を待ちません。
ラバー
エンジンマウントやトラックのキャブのマウントに液体封入のマウントラバーが使われていますが、
2トン積みを中心とする小型トラックへの適用に初期のころから携わることができました。
キャブマウントにおける、当初の発想は減衰機能をばね機構に統合して構造を合理化できないかというものでした。
開発しているうちに乗り心地対応よりも、車内音の低減に効果があることが分かり、そちらによりフォーカスしようということになりました。
耐久性は製造メーカーの協力を得て改善し、音響特性はOEMの研究部門で解析しました。
結果、高級感のある音響特性が中小型トラックで得られました。
今は開発業務から離れて久しくなり、現状に疎くなっていますが
地道な改善の努力が続いていることを望みます。
中国のベンチャー企業の試み
今から7年ほど前、中国の小型モーター製造会社が電気自動車の開発製造業に参入したいということで技術指導の
要請があり、報酬に釣られて現地で仕事をしたことがありました。
社長の壮大な計画を実行するのは、社長の甥のエンジニアを中心とした数人の若手とモーターのエンジニア
のチームで、自動車関係は私を含めた数名の日本人のエンジニア経験者でした。
自動車会社をゼロから創設するには規模が小さすぎると思いましたがまずはプロトタイプ車を作ることから始めました。
サプライヤーを探すためにいろいろ折衝を試みました。
当時の中国には対米輸出の実績がある優良企業が育ちつつありました。
また日系企業も中国で工場を持っているところもありました。
プロトタイプ車は完成したものの社長の方針が曖昧で、計画は前に進まなくなり、
広大な工場用敷地はほとんど手付かずのまま生産に至らなかった模様です。
開発の組織形態を形成できなかったことが敗因と思います。
現地の大手企業からスカウトしてきたチーフエンジニアがすぐにスピンオフするなど
マネジメントの失敗が見られました。その時点で日本に帰りました。
中国の金持ちの一時的な道楽に付き合わさせましたが、良い経験でした。
ハブ
一時代前の話ですが、大型トラックの前輪が外れて坂道の下にいた主婦が不幸にも犠牲になった事故がありました。
それは、空飛ぶタイヤという小説になりました。
当時、私は被告の三菱ふそうのフレーム担当グループ長として勤務していました。
アクスルの設計担当者に対して警察の事情調査が行われましたが、警察の捜査方針が設計者ではなく会社の幹部の責任を
問うという方針の転換がなされたうようです。
問題の部位はハブという部品で、ホイールベアリングの外側の動体部分とホイールとの結合部が一体になった部品でした。
この結合方式は日本独特の方式であることがベンツのアドバイスで知りました。
ベンツの方式は胴部とフランジ部を別体にしてボルトでしっかり結合する形態でした。
ハブのフランジと胴部の結合箇所にはタイヤと地面から発生する横力が大きく作用して当該の部分の疲労
が発生します。不具合発生の当時はタイヤがラジアルタイヤへの変更機で従来の常識から大きく離れた入力が発生していました。
当時の試験標準では横力の作用を軽視していたためこのような不具合に陥ったと思われます。
この事故で会社の責任が大きく問われました。
開発部門の権威主義 事なかれ主義 が問われて然るべきです。
マネージャーの人選を誤まると会社を危機に貶める実例です。
周辺状況の変革期においては担当マネージャーの力量が大きくものを言います。
うまくいっていた時期の凡庸なマネージャーは変動に対しての対応が遅れがちです。
現在、バッテリーの革新の時期です。
自動車会社において、マネージャーの人選は会社の将来を
左右します。
心して人選をしていただきたいと思います。