キャビンのチルト中心周りの慣性モーメントの違いによって大型中型小型のそれぞれのキャブオーバートラックの機構が異なる。
大型は油圧シリンダーで持ち上げる方式に対して中型は2本のトーションバーと左右のフレームに設置されたアンカーを中心とした捩りモーメント反力によって持ち上げる方式をとる。
小型はトーションバー1本を用いてステアリングギヤと反対側のフレーム上に設置されたアンカー中心の反力モーメントをパイプに伝えてそれに溶接されたブラケットをキャブのアンダーフレームに固定させた構造をとっている。
この方式はフレームの一方に大きなねじりモーメントを生じる。この結果、車体の左右傾斜につながり、リーフサスペンション仕様で通常のCチャンネルフレームの場合この傾向が顕著になる。
ボックスフレームもしくはIFS車では問題化していない。
中型は左右が均衡しているので問題化していない。
大型のキャブエアサスペンション仕様ではチルトが構造上2段階となる。最後のアクションでキャブが急速にチルトする現象がある。これを防止する策が必要である。一つはキャブの自然落下(チルトの最終段階)に抵抗を設ける方法もあるがスマートにはチルトシリンダーの方向を変えて最後までチルトシリンダーでコントロールする方法もある。
モバイルクレーンという車両形態においてシャシーフレームは箱型の閉断面である。
長いブームを持つクレーンが作業しているときに発生するモーメントに対抗するために高剛性のシャシーフレームが必要であるためである。
一般車両の場合、ほとんどはこれほどのねじり剛性を必要としていないがこれにも例外がある。
2トン積みクラスの小型トラックにおいて昔はマツダとダイハツ製のダンプ専用のトラックのサイドフレームを閉断面としてそれをパイプクロスメンバーで結合した構造を採用していた。現在は全てのメーカーがこの構造を真似ている。
西日本のメーカーからこの構造を採用してきたのには理由がある。ダンプは土砂をベッセルで持ち上げて後ろに滑り落とすが、土砂が関東ローム層のようなサラサラな土砂の場合は問題ないが粘土質の成分が多いと滑り落ちずに重心位置が高くなる。この結果車両の横転につながる。土砂には地域性があり、例えば青丹よしという枕詞は奈良の都にかかるように奈良を中心とした関西エリアでは粘土質の土が主流である。因みに青丹というのは青色の粘土を示すと言われている。関東のメーカーであるいすゞがこの対応をしたのはだいぶ後になってからであったと思う。
この箱型断面のフレームは通常のC型断面のフレームに対してねじり剛性が10倍ほどある。
小型のダンプトラックの使い方の中で、ゆっくり走りながらベッセルをあげて土砂を少しずつ撒く形態があり、普通のC型フレームの場合ベッセルが傾いた時フレームがねじれて運転手に傾きが即座に検知されず転倒回避操作が遅れて転倒に至る例が多発した。フレームを閉断面化して解決した。
道路の水捌けのために道路の左右方向に勾配をつけている。
右側通行の国では右側を低く、左側通行の国では左側を低く設定している。
かつてオーストラリアでは出荷後のトラックのフロントアクスルセンターを強制的に曲げて左右のキャンバーを変えることによってこれをタイヤの摩耗対策としていたことがある。背景には直進長距離運行の頻度が非常に高い実情がある。タイヤ摩耗のほかにもう一つの弊害は車両の横流れである。中国の大型トラックでこの問題を分析したことがあるがこの時の結論は6x4の後2軸間の平行度のばらつきが主要因であった。
自動車は旋回時遠心力を重心に受ける。これと前後タイヤのコーナリングフォースの釣り合いの結果としてステア角が決まるが、アンダーステアー特性を持つ車両は外側に旋回する傾向を持つ。遠心力を道路のカントによる重力の分力に置き換えた場合、道路傾斜の下の方に流される傾向がある。アライメントが正しく調整されている場合、この横流れは問題になるレベルではないもののある程度は認識できる。かつてカローラで中国の道路を動力を切って走った時この右への横ながれを確認したことがある。後軸が複輪でYAW方向の動きが超安定のトラックでの傾向が乗用車でもあるのが確認された。
ここでは中国の道路カントは国内のそれより大きいような感じを受けた、
大型トラックのリヤアクスルサスペンションリンクのアッパーアームはVロッドが定番である。アクスル側1点とフレーム側2点で一つのアクスルの上部の揺動機構を構成している。
OEMによってこの設計思想に違いがある。
ダイムラーは標準的な構成のジョイント部をラバーブッシュとしている。
これに対してボルボはアクスル側の1点のジョイントにボールジョイントを用いてフリクションを微小にしているのが特徴である。欧州での通常の使い方では問題ないと思われるが、ボールジョイントのシールが損傷した場合大きなリスクを内包している。ラバーブッシュはフリクションは大きく乗り心地に不利に働くがロバスト性がある。
MANは樹脂製のX型のアッパーアームとしていてねじり入力に対処しながらロール剛性を確保しているようである。中国のサプライヤーがこれを鋳造にして製品化しているといっている。ねじりの入力次第では鋳造の強度限界があり強度上の問題となる恐れがある。
大型トラックのリヤサスペンションにおいてエアスプリングが主流になりつつある。
以前は2bagエアサスが主流であったが現在4bagへの移行が進みつつある。
違いはアクスルのワインドアップを抑制する特性のある4bagにたいして2bagは機能上それができないことである。この機能がコストアップを伴うにもかかわらず評価されたと考える。
SAEマニュアルには4bagがエアサス記述されていないのは米国ではそれほど普及していないのかマニュアル化が遅れているだけなのか不明である。米国ではファイヤーストーンが企業としてのマニュアルを充実させているもののそれは単体の特性であってシステムの特性は記述していない。
米国のブレーキ、ステアリングやその他のトラック部品のサプライヤーに昔日の勢いがなく、欧州のメーカーに統合される例をよく見るのは米国ではトラックのシャシー部品は技術革新が一巡しておりコモディティー化した商品はコスト競争にさらされ、低コストの商品開発に苦手な米国企業が苦境下にあると推察される。欧州企業は米国の企業を傘下に収め規模の効果と中国などの市場に対するブランド力で事業を維持していると思われる。
中国のサプライヤーはまだ未熟でそれに代わる能力がないと思われる。ただし国内市場が旺盛でOEMに活力があるので廉価で信頼性のある商品が開発できれば伸長する可能性がある。
日本のサプライヤーはBSがファイヤーストーンを通してエアスプリングでグローバル展開している例以外は存在感が乏しいのは日本のトラックメーカーの生産量が海外に比べて非常に小さいことによると思われる。中国OEMなどへの販売拡大には一時意欲的ではあったが現在はコロナ禍の中でもあり積極的な活動は聞かれない。