一般的にトラックは荷重条件が厳しいのでフロントアクスルを独立懸架とするより
左右を分割しない車軸を懸架する方式とするのが旧来からの鉄則です。
独立懸架はボールジョイントやブッシュといった回転接合点が多くなり高入力の繰り返しに対する脆弱性があります。かつて自衛隊の車両でジープの独立懸架ができなかったのはパラシュート降下想定の負荷基準に独立懸架では対応しえなかったためと言われています。
さらに車軸懸架は極悪路走破時にグランドクリやランスを一定に保持するという特性があるということが評価されてランドクルーザーがかつて車軸懸架に固執していたと言われています。
以上のことから近年まで過酷な使用状態が想定されるトラックは独立懸架は不適当であるとされてきていました。
1990年ごろ、丁度筆者が関わっておりましたが、小型キャブオーバートラックの開発においてシャシーの商品力を大きく向上させれる計画が、好調な経済を背景に事業化されました。
小型キャブオーバートラックのベース車は全高が2m以内に制限されていて、さらに①乗員、②エンジン、③フロントアクスルを垂直に重ねた配置であるため、パッケージング成立のためにばねの上下ストロークを制限せざるを得ない弱点を抱えていました。
このため乗り心地は最悪で乗員に我慢を強いる結果になっていました。
独立懸架にすることによって、車軸懸架の場合のタイロッドなどとエンジンのオイルパンとの隙間を確保しなければならない制約を回避でき、タイヤとフロアやエンジン遮音カバーとの隙間もタイヤの上下移動に伴う包絡線が有利に変化することにより、ばねの利用可能なストロークが大きくとれました。
この結果、ばね定数を低く設定でき、乗り心向上に寄与しました。従来の車軸懸架では狭いばねトレッドのため、ロール剛性が低かったのが、独立懸架の場合、機構的にタイヤのトレッドがロール剛性のパラメーターになることから低いばね定数でもロール剛性を十分確保できました。この結果、従来キャブチルト機構の影響から車体傾斜が発生していましたが大きなロール剛性がその影響を回避する効果もありました。
以上の効用からキャブオーバー型小型トラックにおいて前輪独立懸架はデファクトスタンダードになりました。